#香椎台 木もれ日日記

香椎宮の森の木陰で、広い空をながめながら日々の思いを綴ります

美しいものを美しい、と

昨年買った本、レイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー (The sense of  Wonder)」(2021, 新潮社刊)。なかなか読み始めるまでに時間がかかる本というのがある。まさにこれだった。著者は著名な海洋生物学者、というか自然破壊に警告を発した名著「沈黙の春」で世界的に有名になった、といってもよい。最初の刊行が1962年だから60年前だ。昔のことと片づけられず、むしろグローバルな環境危機に通じる今日的な課題としてなおつきつけられる内容といえる。

「センス」は彼女の死後、翌年の1965年に最後の遺作として刊行された。心して、落ち着いた環境で静かに読まねば、と勝手に思い込んでいて、でもバタバタした毎日でついあとまわしになったというのが実情。このたび、何とか意識して読もうという心境になった。年のせいかな。

何よりもその詩的な文体がここちよい。ちっとも今呼んでも古びた感じはしない。70ページ余りで、しかも内容にマッチした美しい写真が随所に出てきて、とにかくゆっくり読みたい、という気にさせてくれる。

「美しいものを美しいと感じる感覚、新しいものや未知なものにふれたときの感激、思いやり、憐れみ、賛嘆や愛情などのさまざまな形の感情がひとたびよびさまされると、次はその対象となるものについてもっとよく知りたいと思うようになります。そのようにして見つけ出した知識は、しっかりと身につきます」

この本からは、「知ること」は「感じること」の半分も重要ではない、と小さい幼さな子に寄り添ってともに感じる、感動することの大切さを教えてくれます。そしてその感性は大人になっても身につけられるとも。

「地球の美しさと神秘をかんじとれる人は、科学者であろうとなかろうと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまれることはけっしてないでしょう」

ともすれば小さい時から教え込む、知識偏重の教育が商業的にもはびこっている今日、それらに無意識にも流されがちです。テレビやスマホが日常的に子どもらのかたわらにあり、特に新型コロナ禍のもとIT教育が叫ばれ、ナマの自然に触れる機会が極端に少なくなっているように思えてなりません。

そんな折り、この本には励まされる思いがしました。オトナにとっても。ちっぽけな感情に左右されて人を傷つけるなんてことのないように。

もうすぐ春はすぐそこに――。

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