それはある日、とつぜん目の前にできていたんだ。
網を張った鉄格子の壁ができていたんだ。
そりゃ、びっくりして、あとずさりして急いで逃げ出したよ。
だって手を掛けたら網がからむし、塀はのぼれたもんじゃない。
近寄ったり、そこをうろうろしてたら何をされるかわからないから。
その壁ができる前は、そこはそりゃいいところだったな。
日当たりがよくて、ふかふかの土のうえで寝ころんだり、
おしっこやうんちもし放題。野菜なんかもかじれたし。
風通しがよくて、遠くのビルや家も見渡せて。
ここの家ができる前は僕たちは自由に遊べてたんだ。ずっと昔からね。
時々は大きな声で叱られたり、追い立てられたりしたけど、
でもここで遊んじゃいけないって、誰が決めたのかな?
ここの新しい家の主人っていわれてる男かな。
その男がフェンスを買ってきて立てて、網を張りめぐらした。
植えた大事な野菜をまもらなくっちゃ、なんてぶつぶつ言いながら。
「こりゃ、なんか『天井のない監獄』みたいだな。こっちが入ってるけど」
そして遠くをみながら、真剣に考えごとをしてた。僕たちのことじゃなく。
なんでもパレスチナ人という人々がたくさん押し込められているところに、
イスラエル人という兵隊が、いっぱいの人殺しの道具を使って何人も殺して、
いなくなってしまえ、そうじゃなけりゃ、ここから出ていけって言うんだって。
僕たち猫はお互い殺すことなんかないけど、人間たちは平気なのかな?